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いい心臓・いい人生 【第114号】 第23回日本冠動脈外科学会
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発行:心臓外科手術情報WEB
http://www.shinzougekashujutsu.com
編集・執筆:心臓血管外科専門医・指導医 医学博士 米田正始
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真夏日の中、皆様如何お過ごしでしょうか。
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この7月12日から13日まで日本冠動脈外科学会のため和歌山へ行って参り
ました。梅雨明けの夏本番で、しかも南国和歌山とあって清々しい本物の暑さ
を感じさせてくれました。
和歌山県立医科大学の前学長・岡村吉隆先生が会長で、岡村先生らしい優しさ
と積極性が感じられる会でした。
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まず2日目の岡村先生の会長講演「心血を注ぐ」は長年心臓外科の成績向上に
努力して来られた同先生のお姿が目に浮かぶようなお話でした。また和歌山
医大の院長・学長としても私利私欲なく改革を進められた熱い姿勢がよく
わかりました。ちなみに「心血」とは心臓血管外科の略称でもあり、これは
同先生のユーモアでもあったようです。
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私の方は、初日のシンポジウム「虚血性僧帽弁閉鎖不全症の外科」で、ここ
まで開発し育てて来たPHO(乳頭筋最適化)手術という僧帽弁形成術の歴史と
成果をご報告しました。この病気は欧米でも難病として知られ、人工弁しか
ないという風潮さえある状況で、日本発の新しい僧帽弁形成術が役立つことを
報告しました。
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どんな手術にも限界はあります。その限界を破るための新しい左室形成術
(心尖部凍結型左室形成術)もご披露しました。
今回の発表でも、これから使いたい、教えて!と言って下さる先生方が複数
あり光栄なことでした。しっかり伝授して行きたく思います。
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二日目には心筋梗塞後の心室中隔穿孔(VSP)のシンポジウムがあり座長を務め
ました。30年前にトロントにて開発した梗塞部除外術(Exclusion法、David-
Komeda法と呼んで頂いているのは光栄です)や最近の経右室二枚パッチ法
などを含めた大きなセッションで、盛り上がりました。皆さんの努力の利点
を活かし、この難病をさらに克服できるよう、ディスカッションさせて頂き
ました。
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Exclusionについて申せば、パッチを大きくし左室切開部を若干上回る
ほどの大きさにすれば遺残リークも拡張機能障害も起こりにくいこと、昨年
JTCVSという心臓外科トップジャーナルから発表したexclusion改良型なら
深いところからでも綺麗に大パッチがかけられ、かつ組織切れが少ないため
遺残リークも起こりにくいことをお話ししました。さらに左室自由壁破裂を
伴ったようなケースでは威力絶大であることも。経右室二枚パッチ法のうまい
使い方もお話ししました。
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二日目オーラスのビデオシンポジウム(左室形成術)で新しく開発(改良)した
心尖部凍結型左室形成術を発表しました。すでに4年間の経験があり、
これまでのドール手術やセーブ手術よりもはるかに短時間ででき、必要なら
再調整も安全にできる方法で、今春アメリカ胸部外科学会で発表したばかりの
手術ですが、そのよさを判って下さる先生が増え何よりでした。これまで薬で
体調を整えるぐらいしかできなかった(つまり徐々に亡くなっていく)
虚血性心筋症や拡張型心筋症の患者さんの福音になればと思っています。
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医療関係ではない一般の読者の皆様に知って頂きたいのは、こうした努力と
工夫で多数の「助からないはず」のいのちが助かっていることです。それを
ご存知ない内科の先生も多々おられます。情報過多の時代で、内科の先生方
も調べきれないことがあるのです。
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新しい治療を世の中に認知していただくには年月がかかります。しかし目の前の
いのちを助けるのは今しかない、そういう状況では何がベストか、じっくりと
調べ、必要ならセカンドオピニオンももらい、納得するまで相談し、質問し、
考えることかと思います。
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学会では畏友 Gabriele Di Giammarco先生(イタリア)やSuchart Chaiyaroj
先生(タイ)らともゆっくり語ることができ楽しいひとときとなりました。また若い
先生方と旧交・新交を持てたのも収穫でした。
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立派な会を準備下さった会長の岡村先生や和歌山医大の皆様、この冠動脈外科
学会を精力的に改革しておられる荒井理事長はじめ皆様、お疲れ様でした。
留守を守って下さった医誠会病院の皆様にも感謝申し上げます。
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平成30年7月16日
医誠会病院心臓血管外科スーパーバイザー
心臓血管外科専門医・指導医
米田正始 拝
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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