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いい心臓・いい人生 【第121号】 アジア弁膜症シンポジウム(その1)
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発行:心臓外科手術情報WEB
http://www.shinzougekashujutsu.com
編集・執筆:心臓血管外科専門医・指導医 医学博士 米田正始
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秋も深まって参りましたが皆様いかがお過ごしでしょうか。
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さて以前にもご案内いたしましたアジア弁膜症シンポジウム(愛称ムルシンポ
ジウム Mulu Heart Valve Symposium)をこの11月7日から10日まで京都
にて開催させていただき、盛況のうちに幕を閉じました。御礼とともにご報告
申し上げます。
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一日目は京都の東部を楽しんでいただこうという趣旨もあって東山にあるソウ
ドウという会議場(通常は結婚式場で使われる事が多いようです)にて開催し
ました。
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この会議場は寧年坂のすぐ近くにあり、場内から五重の塔が近くに見える絶好
のロケーションでいかにも京都という雰囲気で最初から盛り上がりました。
ディベートではひどく壊れた僧帽弁には弁形成と弁置換のどちらが良いか、
というテーマで白熱した議論が展開されました。
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始めに弁形成の賛成派としてベトナム・ホーチミン市のヴァンファンNguyen
Van Phan先生が話されました。リウマチ性僧帽弁弁膜症では世界トップの
2500例の実績を持つ同先生が様々な手技と成績を披露されました。
あの弁形成パイオニア・パリのカーパンチエCarpentier先生の直弟子でもある
同先生は、長期予後が不明な奇抜な方法よりもむしろ着実に信頼おける方法で
治す、無理はしないというスタンスでした。
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これに対して北京のジャンHaibo Zhang先生は長時間クランプの欠点を示し、
確実に弁置換する利点を強調されました。弁形成にも積極的な同先生には嫌な
役を押し付けて申し訳ないと後で謝っておきました。
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それから南京のチェンXin Chen先生が弁形成(変性疾患のMRに対しては
弁置換はクラスIIIつまりやっては行けない、65歳以上の高齢者でも弁形成の
メリットは大きいと)、マレーシアの大御所ヤクーAzhari Yakub先生が弁置換
の応援(弁形成の経験が少ない術者では無理な弁形成は良くない)をされ
ました。
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リウマチ性僧帽弁弁膜症の弁形成には高度な技術が必要で、欧米にはリウマチ
がほとんどないため、アジアの弁形成技術レベルは近年世界トップクラスの
水準になりました。そこでこのトピックスは大変参考になったものと思います。
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自分の長所と限界をわきまえ、確実に長期予後をベストな点に持っていく、
そこでその外科医にぴったりの弁形成と弁置換の住み分けが自ずとできて行く
と思います。自分自身の経験でも10年前に弁形成できなかった難症例が今は
できる、という状況に時々遭遇します。同じ基準で弁形成すべきとかすべき
でない、とは言えないわけです。
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熱いディスカッションの後は、恒例になったMuluレクチャーで今回はサウジ
アラビアのアルハーレス Zohair Al Halees先生がロス手術の復活について、
同先生の長年の経験をお話しされました。
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近年、大動脈弁形成術の進歩で、エキスパートの間では何とかロス手術を避け
ようという空気を感じますが、このロス手術は適切にやれば素晴らしい長期
予後を出せるだけの内容があり、弁形成のバックアップとしてもうまく使えば
患者さんに益するものと実感できました。
君のおかげでロス手術のすごさを改めて勉強できたよ、と御礼を言うと、無口
な同先生は満面の笑みで返してくれました。
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それからソウドウの見事なパーティ会場へ場を移しディナーとなりました。
皆様をどうしてもベストシーズンの京都でもてなしたいという理事会の強い
ご希望で高価な参加費になったことをお詫びしたところ、そりゃ当然でしょ
と応援して下さる方が多く、持つべきものは友達と感動いたしました。帰途
ライトアップの五重の塔を眺めながら皆さん京都は素敵と口々にお褒め下さり
光栄の至りでした。(つづく)
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平成30年11月13日
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医誠会病院心臓血管外科スーパーバイザー
心臓血管外科専門医・指導医
米田正始 拝
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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