いい心臓・いい人生 【第132号】 第24回日本冠動脈外科学会にて

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いい心臓・いい人生 【第132号】 第24回日本冠動脈外科学会にて
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発行:心臓外科手術情報WEB
http://www.shinzougekashujutsu.com
編集・執筆:心臓血管外科専門医・指導医 医学博士 米田正始
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梅雨が明けたと思いきや、台風が来て近畿はしっかり雨が降っています。台風進路
沿いの皆様にはくれぐれもご注意をお願いします。

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さてこの11日と12日、金沢市で開催された冠動脈外科学会に行って参りました。
金沢大学教授の竹村博文先生が会長で、金沢出身の大哲学者・西田幾多郎の言葉を
引用しての「潜心、そして、先進」というテーマでした。

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竹村先生のお人柄を反映したような、親切丁寧な企画が多く、皆さん大変勉強に
なったのではないかと思いました。
一般の読者の皆様にも冠動脈疾患(つまり狭心症や心筋梗塞など)の治療では
このような問題があり努力が行われているということを知って頂く機会になるかも
しれないため、ここで少し記載します。

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まず初日の「虚血性心疾患の新しいガイドラインを読み解く」では新しいガイド
ラインの説明と現状が論じられました。外科治療つまり冠動脈バイパス術は重症例
で患者さんの命を助ける、寿命を延ばすというメリットがあり、ガイドラインでも
治療法として推奨されるケースが多々あります。しかし、これが現場ではまだ浸透
しているとは言えず、カテーテル治療が行われるケースが多いことも論じられまし
た。どのようにして患者さんに最適の治療が行われるか、内科外科を含めたハート
チームをもっと機能させるにはどうしたら良いかが論じられました。

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もう一つの親切企画、FFR(冠動脈にどれくらい血液が流れているかの指標)の
教育講演も好評でした。これまでは冠動脈に造影剤を入れて内側を動画にして、
どこが狭くなっているかを調べ、それに応じてカテーテル治療PCIやバイパス手術
を行なって来ましたが、一見狭くなっている冠動脈でも、実際にはけっこう良く
血液が流れている、つまりその部位には治療の必要がない、こうしたケースが多々
あることがわかって来ました。それを認識することは患者さんに本当に必要な治療
を行い、かつ、不要な治療を回避するという大きなメリットがあります。このFFR
そして冠動脈の内側を精密に知るOCTの講義がされました。すでに知っていること
とは言え、あらためて最近の知見を学び頭の中を整理する素晴らしい機会になり
ました。

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また国際セッションとしてアジアの有名心臓外科医が手術をビデオで披露する場が
ありました。畏友Jae Won Lee先生(韓国)やKi-Bong Kim先生(韓国)、
Suchart Chaiyaroj先生(タイ)はじめ、数名の先生らが参考になる貴重な手術
ビデオを見せてくださいました。蛇足ながらせっかくの友好セッションでもある
ため、中国のジョークをひとつお話ししなるべく場を盛り上げるようにさせて頂き
ました。

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2日目には重症虚血性僧帽弁閉鎖不全症のワークショップがあり、私も発表いたし
ました。この病気は弁膜症の形を持っていても本質は心室の病気であるため、心室
を治すことが必須である、という観点から、世界に先駆けて行なって来た2つの方法
(乳頭筋前方吊り上げと心尖部凍結型左室形成術)を同時に行う手術を披露しました。
こんな重症でも治るのですか、ぜひ使ってみたいと後でご質問をいただき、手術の
コツや、外科治療の持ち味つまり内科のカテーテルではできない治療を行うことが
患者さんやハートチームに貢献する道であることをお話ししました。

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午後には会長のもう一つの親切企画、Syntaxスコア計算の講演がありました。この
Syntaxスコアとは冠動脈疾患の重症度、複雑度を計算するもので、このスコアが高い
とバイパス手術が有利になり、スコアが低いとカテーテル治療PCIが有利になるという、
貴重な指標です。しかしその計算法を知らない人が多く、私も数年前に勉強したまま
になっていましたので有用なセッションだったと思います。

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2日目最後にブローアウト型左室破裂のビデオセッションがありました。ブローアウト
とは心筋梗塞のあと、文字通り、左室が爆発(ちょっとおおげさ)するように破れる
病気で、多くの患者さんが死亡されますし、手術も難しいと言われています。私は15
年以上前にアメリカのジャーナルで発表した手術法をさらに改良したものをお出しし
ました。工夫すれば出血を止めることは難しくない、それよりも患者さんが生きている
うちに手術室まで到達できる方法を考えよう、生きて到達できれば救命可能という
メッセージをお送りしました。発表の先生方もみなさんそれぞれ貴重な経験と努力を
披露され、今後の展開につなげる良いセッションだったと思います。

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それ以外にも若い先生らに役立つセッションも多く、充実した二日間で、私は金沢の
街を楽しむ時間なく、急いで大阪に戻ることになりました。立派な会を開催された竹村
先生はじめ金沢大学の皆様、ご苦労さまでした。

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令和1年7月27日

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医誠会病院心臓血管外科スーパーバイザー
心臓血管外科専門医・指導医
米田正始 拝

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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