いい心臓・いい人生 【第135号】 キエフの国際学会に行って参りました

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いい心臓・いい人生 【第135号】 キエフの国際学会に行って参りました
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発行:心臓外科手術情報WEB
http://www.shinzougekashujutsu.com
編集・執筆:心臓血管外科専門医・指導医 医学博士 米田正始
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この10月24日から25日にかけてウクライナ・キエフの心臓再建外科2019という学会
に参加しました。国立キエフ循環器センターというウクライナ共和国を代表する
ハートセンターからご招待を頂いての参加でした。

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旧ソ連が15の共和国に分かれ、それぞれの道を歩んでいるのですが、ウクライナは
もともとソ連の中心的存在で、ICBMミサイルの基地やあのチェルノブイリ原発でも
有名です。

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学会の前日にこのキエフ循環器センターを見学しました。案内して下さった院長の
トルドフTodurov先生は腕利きの心臓外科医でもあり、大変意欲的に心臓医療を進
めているという印象でした。有名なベルリンハートセンターをモデルとしてキエフ
にハートセンターを13年前に造り、すでに年間2000例の心臓手術を行うまでに発展
していました。

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病室もICUも広々とした空間で患者さんもくつろいでいる感がありました。2-3年後
に新病院を準備中の医誠会(国際)病院の参考になるセンターでした。またこうした
国際学会を開催し、世界と交流し人を育てる、まさに国際病院の姿は参考になりま
した。

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学会はキエフや旧ソ連系の各国からの参加に加えて欧米各国から1名ずつゲストが
招待され、なぜかアジアは私だけでした。

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学会1日目は我が恩師デービッド先生(Tirone E. David、トロント大学)とランゲ
先生(ベルリン心臓センター)と私の三人で座長を行う特別セッションでした。
まず冠動脈バイパスとくにオフポンプバイパス術の展開が論じられ、日本での経験
や現状を紹介しました。

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ついで弁膜症関係で三尖弁形成術でのクローバーテクニックでも他法とのうまい
使い分けを論じました。
ランゲ教授はエプシュタイン病の三尖弁閉鎖不全症に対する弁形成術の変遷と現在
のコーン手術(Cone、円錐)まで解説されました。私も好きな手術のため議論させ
て頂きました。
フランスの畏友・バシェー先生は心臓手術の失敗とその予防について、航空会社の
安全対策と対比して論じました。このレベルのしっかりした医療安全が必要と改め
て思いました。

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学会2日目は主に大動脈弁・大動脈基部再建と心不全の外科治療でした。
大動脈弁・基部再建がらみではホモグラフト、ロス手術、MICSでのスーチャーレス
(無縫合)生体弁、自己心膜再建などが熱く論じられました。それぞれ使い道と
弱点があり、うまい活用がポイントと思いました。

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心不全については私はここまで開発・改良してきた手術つまり乳頭筋最適化手術
(PHO)と心尖部凍結式左室形成術(FASVR)とくにその両者を組み合わせた新しい手術
Dual Repair(二元手術)を紹介しました。
反響は大きく、多くの質問をいただき、セッションの後も「自分もやってみたい」
「やり方を詳しく教えて」というご希望を幾つもいただき、光栄なことでした。

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ウクライナを始め旧社会主義国は経済的に苦しく、医療予算にも制約が強いため、
医療関係者は苦労しておられるようです。私のDual Repair手術なら補助循環
つまり人工心臓と心移植の10分の1から20分の1の費用で患者さんを助けられる
ため、今後活用して頂ければと思いました。

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最後に恩師デービッド先生やニューヨークのスチュワート先生らとともにパネル
ディスカッションがありました。心臓外科の将来像について様々な意見を交換し
ました。

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キエフでは日本大使館の方々にお世話になり、有意義で楽しいひとときが持てま
した。日本の医療が優れている点や劣っているところを把握すれば国際貢献が
できるのではといくつかの提案をさせて頂きました。
またウクライナなどの開発途上国の苦労は近い将来、経済が減速した日本でも現実
となり得るため、お金のかからない医療の有用性をお伝えしました。

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学会の後、世界遺産のSt Andrews寺院などを皆で歩きました。旧社会主義国には
昔の良いものが残っており貴重な財産と感じました。

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お世話になったキエフ循環器センターのトルドフ先生やデマンチェックDemanchek
先生、日本大使館の皆様、そして留守を守って下さった医誠会病院の神谷賢一先生
や皆様に御礼申し上げます。

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令和元年10月28日

米田正始 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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